今回、タダノさんが発売した「世界初、フル電動ラフレテーンクレーン」について、各本面の方々から「どう思いますか?」と聞かれるのでここで見解を書きます。
建設機械には「道具として使用する」側面と「資産として運用する」側面が存在します。
そして、関わる主な登場人物として「使う人」「買う人」「治す人」がいます。
改めて言うまでもありませんが、良い建設機械とはこれらのバランスが取れているものを指すのだと思います。
タダノさんが優れている所は「資産として運用する」側面です。
「買う人」「治す人」に重心を置いた機械作りだと思うのです。
作業半径15mでタダノさんのクレーンだけがたくさん吊れるわけではありません。全長、全幅、全高、アウトリガ張り出し長、テールスイング、等々もタダノさんが他メーカーに比してスペック的に評価されているわけでもありません。
だけれども、日本国内においては現在でも7割近い新車販売シェアを誇り、海外に向けた中古車価格も高値を維持しています。昨今では新車価格が高騰する中、購入するのは「即時償却目的」の法人ばかりですが、そういう資産運用に優れた法人ほど新車はタダノを選びます。なぜでしょう?
タダノさんが評価されているのは、日本国内において「部品の供給率が高い」こと、そして、その供給率の高さを活かせるサービスネットワークが存在、機能しているという一点に尽きると思います。
移動式油圧クレーン(ラフタークレーン)はメンテナンスフリーのものではなく、24時間、365日、公道を走行して不特定多数の作業現場にワンマンでタイムリーに行き、4連操作することによりスピード感のある作業をこなせることが建設機械として最大の魅力です。
その魅力を支えるのが迅速な「トラブルシューティング⇒パーツサプライ⇒メンテナンス」というサービスネットワークなのです。
壊れにくい機械作りも大切ですが、壊れた時にどう問題解決できるのかが最も大事な部分です。
そして、それが資産としての機械評価(中古車評価)を高く維持させます。
僕はクレーンを評価する際、上記の事を念頭に置き考えます。
もう、言いたいこと、分かりますよね?
当初、「フル電動」と聞いた時、コンセプトカーだと思ったんですよ。でも、今の状況を見ると本気で日本市場に投入しようとしているみたいですね。
でも、その割に、指定サービス工場に何の通知もないんですよねぇ。
カタログも要求したら「営業所に10部しかないから」という理由で1部しかもらえませんでした。一応、私、タダノさんの指定サービス工場の責任者なんですけどね。
今現在(2024年4月時点)、サービス工場に「取扱説明書」も「パーツリスト」も「修理要領書」も「教育用資料」もなんにも来ていませんし来る気配もありません。実機講習会もないし、昨年の6月に実機を見たいと申し込んだら(一応、サービス工場ですから)「申し込みが殺到している」という理由でやんわり拒絶され今日に至る状況です。本気で市場投入する考えがあるのでしょうか。
2024年3月31日TBS系で放映された「がっちりマンデー」でこのEVOLTが取り上げられていましたが、従来機に比して「音が静か」なのと1台1億4千8百万円するのと「問い合わせが殺到」しているということしか頭に残りませんでした。
リチウムイオンバッテリーを動力源として使用しているのは分かったのですが、使用上一番知りたいのは、そのバッテリーが全部で何個使用されていて、1個いくらするものなのかと、どのくらいの期間で寿命が来て、交換するとなると費用がいくらくらいかかるものなのか、じゃないですかね。
また、なぜ今更「リチウムイオンバッテリー」なのでしょう。今更。
仮に購入した方がいたとして、朝、車庫を出発して片道20kmの現場に到着し8時30分から17時まで作業して帰路についた時、当初フル充電の状態であったとしても充電キレを起こして公道で止まってしまうことが容易に想定されるのですが、その際は、昨年発売している「発電機」を現場にトラックで運んで公道上で急速充電するのでしょうか。その運んでいったトラックが排ガス出していますが、そのことは誰もツッコまないのでしょうか。
25tクレーン車の一日の作業料金って地域差や作業内容差はあると思いますが、だいたい1日5万円前後で月の売上平均は100万円から120万円を推移していると思いますが、それは新車25tクレーン車が2400万円(消費税5%)で購入でき、燃料がリッター80円で入れられ、月の稼働に日数が25日計算で、10年~12年使用後に1000万円くらいで売却できていた環境によって作られたルールです。
25tを建設揚重業者が1日5万円で請け負っている以上、月の割賦支払は30万円程度が限界で法定償却年数が6年(72ヶ月)である為、支払総可能額は金利込で2160万円(=30×72)となり、現在の新車価格との乖離が激しい為、新車が売れていないわけですから、造っちゃったら原価かかってしまって1億4千8百万円になりました、といっても着いて来られる人がいないと思うのですがどうなのでしょうか。
そして、更に聞いてみたいのは、タダノさんはこのEVOLT、12年~14年経過時点での市場中古価格をいくらくらいと想定しているのでしょうか?
「そんなこと解らない。だって、世界初なんだもの」というなら、国内の一般的な建設揚重業者がどういう基準でクレーン車の設備投資を決定しているのか本当にご存じないんですね。
まさかとは思いますが、購入決定に与える優先順位第1位が「環境に与える負荷」だと思っているのでしょうか。
新しい価値を創造し市場に投入するのはメーカーとして大切な姿勢です。
そして、それが「生産財」を対象とする場合、その市場投入により現場で生まれる「付加価値」とはどのようなものなのか慎重に予測する姿勢が重要です。
トップシェアを持つメーカーはその意味で「保守的」であるべきなのです。
やれば良いというものではない。
できるけどやらないという姿勢こそが信頼されるのです。